戦艦大和(9)◎無意識なる造形美
◎無意識なる造形美
戦艦大和の写真は異常に少ない。これほど有名でありながらも
当時の写真がほとんど見あたらないのは、それほど徹底して秘密
主義に徹していたからであるが、この事実からも大和の存在が当
時の一般国民にはほとんど知られていなかったことがなんとなくわ
かる。そういうことも大和の神秘性を高め、戦後の人気に拍車をか
けたのだと思うが、大和人気の中心はやっぱりその艦影の日本的
な美しさにあると思うのである。私と同様に大和の艦影に、直截に
日本美を感じている人々に問いかけたい。戦艦大和は当然ながら、
けっして船体の美しさを目指して造ったものではない。それは、当
時の日本技術の粋を結集し、戦後の日本型生産システムのアー
キタイプ(原型)となった大和建造技術陣の努力の結果がもたらし
たものであった。みなさんにも考えてもらいたい。審美的な設計思
想が微塵もないのに、戦艦大和はなぜあのように優美端麗な面
持ちをしているのであろうか。
戦艦大和は当然ながら巨砲大艦を目的として建造された。着手
された当初の昭和10年の計画では、全長294m、全幅41.2mであ
ったが、呉の造船ドックの長さが313.94mで、この長さで294mの艦
長を造るのは無理だったらしい。そこで、模型実験を重ね、長さが
263mに決まったそうである。(渡部真一著「戦艦大和99の謎」、二
見書房刊)
戦艦大和基礎データ
全長 : 263m
吃水線長 : 256.0m
最大幅 : 38.9m
排水量 : 72809t(満載時)
重油満載量: 6300t
最大速力 : 27ノット
軸馬力 : 15000 HP
兵装関係
主砲 : 46cm 3連装3基(9門)
副砲 : 15.5cm 3連装2基(6門)
高角砲 : 12.7cm 2連装12基(24門)
機銃 : 25mm 3連装29基(87門)
機銃 : 25mm 単装26基(26挺)
機銃 : 13mm 2連装2基(4挺)
3連装の46cm主砲を3基、合わせて9門を搭載するために、その
主砲砲塔の全重量を合計すると、主砲の重さも含めて1基3269t、
それが3基で計9807tになり、重巡洋艦一隻の重さに匹敵した。戦
艦(バトルシップ)の使命は、この主砲を戦場に運搬し、なおかつ
縦横無尽の機動性を実現することにある。大和は上述の兵装、そ
の他を搭載し、航続距離や機動性能を追求した結果、その艦長と
艦幅が決まったのである。あとは生活環境や艦のユーテリティであ
る。そういう機能、性能を極力追求した結果があのような優美な船
体となったのである。
大和級1号艦「戦艦大和」には、国家の命運を託するほど大きな
期待が掛けられていたことは、その命名からして想像に難くない。
従って、設計技術陣や現場を担当した職人連中は、並々ならぬ心
血を注いだことは間違いない。審美的な意図はまったく皆無だった
建造プロジェクトではあったが、結果的に出来上がった姿は、他に
類例のないほど優美かつ繊細なものに仕上がっているのである。
たとえて言うなら、名のある刀工が、心魂を傾注して造り上げた一
振りの芸術的な日本刀のような鋭さ、優美さが造形として出来上
がったのである。
これを自分なりに考えてみると、蜂の巣が形成される過程と似て
いなくもない。蜂は群で巣を作るが、たとえばスズメバチの営巣過
程を見ると、アパートやマンションのように整然と階層がが出来上
がっており、それぞれの階はきれいな六角形の柱状穴が整然と
構成されていて、あたかも水晶の結晶構造のように自然の造形
の美しさがある。同様に、戦艦大和も、民族が魂を込めて造り上
げた巨大バトルシップは、期せずして、造形的に無駄のない美し
い仕上がりになったのである。これは蜂の巣と似ているが、日本
民族の無意識の審美眼があのような端麗な造形美を実現したと
しか思えないのである。
何年か前に病院に入院したとき、隣のベッドに八十歳近い年
輩者が居て、その人から南方戦線の話をいろいろと伺っていた。
その中に印象深いものがあった。彼はレイテ沖海戦で戦艦大和
がトラック島に来たとき、碇泊している姿を間近に見たそうである。
その時の印象を感慨深げに話していた。大和を見たとき、その威
厳に満ちた姿と圧倒される美しさに、日本はけっして負けないだ
ろうと思ったそうである。それほど戦艦大和の姿は誇らしさと感動
を喚起させる強烈なインパクトを有していたということであろう。
(つづく)
| 固定リンク








コメント