戦艦大和(25)◎時代の空気とは
◎如何ともしがたい時代雰囲気の差異
吉田満が書いた「戦艦大和ノ最後」は、角川博氏が旗を振って「男たち
の大和/YAMATO」という東映の映画作品になって、昨年12月に公開さ
れた。しかし、吉田満の同著は、すでに1953年、昭和28年にも新東宝
株式会社から「戦艦大和」という題名で作品化されている。私が生まれた
年の翌年である。この作品はすでにDVD化されているから、「男たちの大
和」を見た方々は、是非、この作品も鑑賞することをお勧めする。
この初期の大和映画は、戦艦大和がその最後を迎えてからわずか8年
後に造られた作品である。モノクロームの映画ではあるが、時代の雰囲
気が非常によく表されていた。一方、前にも書いたが昨年の「男たちの大
和/YAMATO」は、あの時代の空気の再現に完全に失敗している。その
意味で私はこの映画の人物描写や背景描写をまったく評価していない。
この映画が価値を持つ唯一の部分は原寸大の大和のロケセットを使った
ということくらいであろうか。あとは敵機に波状攻撃された時、最後の戦
いを行った戦闘シーンも評価できる。
しかし、大和出撃時の乗組員たちの様子や事細かな人間描写は、昭和
28年の「戦艦大和」が圧巻である。この映画では、当時の空気を非常に
よく現出している。終戦後わずか8年後である。GHQが如何に日本国民の
洗脳を執拗に行った後であっても、製作スタッフや俳優さんたちは、戦艦
大和と同じ時代の空気を吸っていた方々であるから、演技でも自然に当
時の空気を醸成できたのだと思う。
私はこの昭和28年作の映画作品を観ていて、ある感慨に耽ったことを白
状する。戦艦大和は沖縄死守のために出撃し、途中で無念の轟沈を遂げ
たが、敵機群との最期の戦いの時、大和の46センチ主砲が何度も火を
吹いていたシーンがあり、それを観ていて涙がにじむ思いであった。なぜ
なら、吉田満の「戦艦大和ノ最後」を下敷きに造られた作品ならば、大和
の最後において、主砲は一発も撃たれなかったことは当然知っていたは
ずである。ところが映画では思いっきり主砲を轟かせていたシーンが作ら
れていたのは、スタッフの大和に対する強い思い入れがそうさせたので
あろう。
大和の最後は、数百機の敵機による波状攻撃で、味方の援護機が一
機もなく、撃たれ放題で沈められたのである。生き残った人たちが口々に
する慙愧の思いは、最後に敵機に向かって一発も主砲を撃たなかったこ
とにある。この無念さを忠実に再現することはスタッフには、悔しくて到底
できなかったものと見える。その心情がよくわかるだけに、彼らが大和の
最後に主砲を撃たない映画を作ることは忍びなかったことがわかったの
である。だから私は製作スタッフの心意気に涙が出たのである。史実と
は異なるが、主砲を放ったシーンを敢えて入れたことに、私は少しも責め
る気持ちは湧かないのである。私が監督であったなら、私も戦闘シーン
に主砲を発射させていただろう。
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コメント
アカショウビン様、はじめまして。
コメントどうもありがとうございました。私にとって、戦艦大和は、
あれは有名な戦艦だったという枠を超えて、あまりにも巨大な問
いかけを持つ存在です。私はちょうど、占領期が終わった年に生
まれ、国家同士の争いの雰囲気をまったく感じないで育った幸せ
な世代の先駆けです。しかし、我々の年代は幸せなんでしょう
か。大東亜戦争は野蛮で非道な戦争だったと空気的に教わった
気がします。親父も徴兵されて北支那方面隊に配属され、歩兵
として戦ってきました。
山へきのこ狩りやイワナ取りに良く連れて行ってくれた、私の
寡黙な父も戦地で非道なことをしたのだろうかと思ったこともあり
ました。三十路になる前になんか変だぞと思っていました。そし
て四十路になってから、いわゆる日教組的左翼史観が大間違
いだったことを痛感しました。この時から、私は戦艦大和に戦前
文明のゆかしさ、美しさ、凛とした武士道精神を感じ取るように
なってしまいました。
それからいつも大和の魅力に想いを馳せております。吉田満の
文語体「戦艦大和ノ最後」は悲愴きわまる大和の最後を格調高く
描写しており、まさに戦記絵巻物の壮大な臨場感が伝わってき
ます。描写そのものは、血の海、切断された胴体、手足、重油混
じりの海水や怒涛の渦巻きなど、地獄絵図そのものですが、全
体としてなぜか美しい叙情的光景を観ているような感じです。ア
カショウビン様が毎年読み続けている気持ちがよくわかります。
吉田満のこの作品は史実としての回想記でありますが、その無
駄のない切々とした文体は、吉田自身が意識しなくとも、大和と
共に沈んだ、あるいは大和を護衛して沈み、亡くなられた多くの
英霊たちにとって、非常に深い鎮魂歌になっています。
さて、昭和28年度版「戦艦大和」DVDですが、私は地方の
TSUTAYAで借りました。東映作品コーナーというブロックがあり
まして、偶然、そこで見つけました。他には「海軍」とか連合艦隊
とかゼロ戦や回天を描いた作品が並んでいました。是非ご覧に
なってみてください。
そうですね、雰囲気としましては、昭和18年に大本営が製作
した映画「海軍」にかなり近いものがあります。昔の人は清楚で
静かで笑い顔がとてもきれいですね。野蛮で憎悪剥き出しの日
本兵などというイメージは戦後に悪意で作られたものです。
投稿: 高橋博彦 | 2006年7月22日 (土) 01時25分
山崎さんの掲示板の書き込みでご高説を拝見しました。私も小泉氏の言動に対する貴兄のお考えには殆ど同感です。
ところで私は夏になると吉田満の著作を読み直し読み継ぐのが習慣になっている者です。昨年から始めたブログにはアレコレ所感を書き込んでいます。焦点の定まらないブログですがよろしければご笑覧ください。
今年の初めに私も「男たちの大和/YAMATO」を観ました。それなりに楽しみましたが、なにやらモヤモヤした感じも抱いたので、たまたま貴ブログの書き込みを読ませて頂き納得した思いです。同世代の一人として昭和28年に作られた作品というのは是非観てみたいと思いますそれはDVDなどになっているのでしょうか?ご教示頂ければさいわいです。
投稿: アカショウビン | 2006年7月22日 (土) 00時37分