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2006年7月29日 (土)

BSEリスクの米国産牛肉は日本人をどこまで怒らせるか

 別冊正論Extra03の巻頭で、評論家の日下公人(くさかきみんど)氏が、
昨今の日本に勃興してきたナショナリズムについてこう述べている。

 『いまや日本人は総体として、先の大戦に敗れて以後「この国」には不要
なものとしてきたナショナリズムに目覚めてきた。その切っ掛けを作ってくれ
た恩人は、アメリカのクリントン前大統領、中国の江沢民前国家主席、北朝
鮮の金正日総書記長、ロシアのプーチン大統領の四人である。端的に彼ら
に共通していたことと言えば、日本に対しては、どれだけ無礼な振る舞いを
しても、どんな嘘をついても構わないと思っていたことである。』

つまり、このナショナリズムを喚起させた人物は、クリントン、江沢民、金正
日、プーチンの四人であり、確かに彼らの言動や対日姿勢は日本人をかな
り怒らせてきている。日下公人氏は、これでようやくマッカーサーの催眠術
から目を覚ましたと書いているが、はたしてそうだろうか。私はマッカーサ
ー催眠術、すなわち東京裁判の桎梏から日本人はまだ解放されていない
と見ている。確かに、日本人は何でこんな無礼を浴びてまで我慢せにゃな
らんのだと思っている人々は増えてきている。

 しかし、まだこの怒りは真のナショナリズムには遠いような気がする。クリ
ントンが日本を軽視する形で中国を称揚して戦略的パートナーとまで言い
切ったことは記憶に新しい。この時、日本の一部はざわめいたのだが、総
体としては日本はアメリカとの信頼関係を信じていたようである。ところが
今頃になってわかったことであるが、クリントンは宮沢と会談した折、すで
に年次改革要望書の原案をしっかりと敷設していた。そのことは関岡英之
氏の「拒否できない日本」を皮切りに、米国の宗主国気取りの実体を暴い
た本が続々出始めているにも関わらず、マスコミはそれについて終始沈黙
し、国会もそのことに触れないようにしている。

 その事実こそ日本人が真に目覚めてないことの証左である。昨今の中国
の領海問題、韓国との竹島問題、北朝鮮の拉致問題、これらは確かに国
民の怒りを買ってはいるのだが、これはまだ本物ではない。香山リカ氏の
言うプチ・ナショナリズムというレベルであろう。その最も象徴的な人物は小
泉純一郎である。日本人はまだ東京裁判の呪縛が解けていないのであ
る。

 ところで、いよいよアメリカ産牛肉が日本に入って来る。BSE対策をなおざ
りにしているとほとんどの日本人が感じている段階で、政治的圧力によって
輸入を解禁するこの状況は日米の興味深い動きを予想させる。私は日本
人がどれくらい米国産牛肉を購入して食べるのかに強い興味がある。おそ
らく、日本人の民族的な潔癖性を考えれば消費者の食指はほとんど動かな
いだろう。これに対して、中間流通業者は悪いことをするものが出てくるの
かもしれない。

 たとえば、米国産牛肉を第三国経由で輸入し、生産国表示をメキシコ産
だとか、他の国にするとなど偽装することがあるかもしれない。また、国内
の流通過程で産地のすり替えが行われるかもしれない。しかし、今回は日
本人全体が米国産はリスクが高いと感じているから、姑息な手段でごまか
すことは無理だと思う。今の日本人は牛肉を常食的に食べないことに慣れ
てきている。たまには食べたくなるかもしれないが、たとえばそれは月に一
度の贅沢として国産牛、あるいはオーストラリア産の高級牛肉を食べること
になるだろう。

 贅沢な食事の楽しみに食のリスクをわざわざかける必要がないからであ
る。私が強い興味を覚えることは、日本人が米国産牛肉を消費しないと知
った時のアメリカの反応である。その時、アメリカがどんな態度を取るのか
およその予想はつく。国民が食べなければ当然輸入量は激減する。その
時、アメリカは日本政府に対してどういう要望を出すのだろうか。たとえば
スーパー301条のような通商的な制裁条項を立案して発動するのだろう
か。

 あるいは、国民に米国産牛肉を消費するように然るべき国策を講じろと
言うのだろうか。アメリカがどんな強制力を発動するのかわからないが、お
そらく政府は国民の反意と米国圧力の狭間に立って呻吟することになるの
だろう。それでも、国民は食の安全を優先するとしたら政府は手の打ちよう
がなくなる。つまり、結果としてはこうなるだろう。アメリカが日本の要望に
折れてBSE対策をきちんと行うか、あるいは今までの姿勢を踏襲して頑強
に日本を恫喝するかである。

 後者の可能性が強いが、私はアメリカが恫喝に入ってくれた方がいいと
考えている。なぜならアメリカが直接日本国民の神道的潔癖性という文化
を侮辱し、頭ごなしに日本の食生活を非難してBSEのリスクを有した牛肉を
ごり押しする事態になった時、日本国民の総意的な怒りの湧出が非常に
重要だからである。どんなお人よしでも食いたくないものを無理やり強要さ
れ、しかも金を払わなければならないとしたら怒る以外にない。この怒りの
喚起がアメリカによる東京裁判史観の呪縛解除にストレートに繋がる可能
性はあるかもしれない。少なくともアメリカの理不尽さが今に始まったこと
ではないという自覚を持つことは大事である。それに、また特定危険部位
の混入という米国側の手落ちは必ず起こるだろう。

 この時、米国は全面輸入禁止は駄目だと今から言って牽制しているが、
そのこと自体がアメリカの検査体制の杜撰さを露呈している。日本人が納
得するわけはない。特定危険部位が入ったら国民はますます食いたくなく
なる。しかし、アメリカは日本を異常に潔癖すぎると言って強硬に非難する
だろう。つまり、アメリカは日本人の文化を否定しているのである。私はアメ
リカがBSE問題で、日本人を家畜同然の存在とみなしていることを徹底的に
見せ付けてくれればいいと考えている。この問題はとことん揉めたほうがい
い。日本政府の弱腰は揉める胆力さえも持たないが、国民が頑強に突っぱ
ねた場合は米国に阿諛追従するわけには行かないだろう。

 米国産牛肉問題は嗜好や値段の問題ではなく文化の違いの問題であ
る。この問題を究極まで詰めていくと、異質な文明同志の齟齬ということに
なる。アメリカは近代合理主義の確率論でBSEのリスクを認識し、日本は神
道的潔癖性から全頭検査を要求する。所詮噛み合わないのである。ここで
我が国の捕鯨禁止の経緯を考えてもらいたい。国際捕鯨委員会は、1982
年に商用捕鯨の全面禁止を決議した。日本や韓国など数ヶ国が反対した
が、日本はアメリカに恫喝されてやむなく従うことになった。国際捕鯨委員
会とは言っても実質は国連と同様にアメリカの傀儡組織であった。戦後、ア
メリカが日本に行ったことは刀狩りばかりではない。食文化の破壊もやって
いたのである。米食からパン食切り替えの奨励、そして伝統的鯨食の禁止
である。小麦の輸出と牛肉の輸出のためである。アメリカ産牛肉輸入には
そういう背景もあるのである。

 つまり、米国が行っていることは、イスラム教徒にキリスト教に改宗しろ
と強要していることと本質的には同じであり、相手側文化の徹底的な無視
と侮辱なのである。これは彼らが唱えるグローバルスタンダード経済の一
つの本質でもある。日下公人氏は、日本人を怒らせたら本当は怖いんだぞ
と随所で言うが、いつその怒りが出るのかと思う。BSE問題に私が期待して
いることは、政府が米国と玉虫色の妥協を図ったとしても国民がそれに従
わないということである。そこへ米国が強圧的に畳み掛けて来た時、はたし
て日本人全体は最終的にどういう反応をするだろうか。

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コメント

sesiria様、コメントありがとうございました。
まったく日本の誇りを忘れた対米追従は呆れかえ
るばかりです。

 誇りばかりか、国民の生命の安全さえ、売り渡
して平然としている小泉売国内閣はひどいもので
す。アメリカですが、明らかに日本を第二の占領
期に置いています。日米関係を考える度に、精神
の健康を害します。

投稿: 高橋博彦 | 2006年8月20日 (日) 20時19分

はじめまして。
ブログを拝見し、スッとしました。
書かれているとうりだと思いますね。
アメリカのやりくちは結局 昔から変わってないですね。
本当に日本人が真剣に怒り出すときが
いつ、来るのでしょうか。

投稿: sesiria | 2006年8月20日 (日) 18時18分

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