« 国の借金を返した5つの例(小野盛司) | トップページ | 第49回 日本経済復活の会 開催のお知らせ (2月26日、火曜日) »

2008年2月15日 (金)

政府貨幣発行について(小野盛司)

(※日本経済復活の会 会長 小野盛司氏の記事、第二十七弾です)
  http://tek.jp/p/


 ここまでは通常の景気刺激策について述べた。日本のように国の借金がGDPを大きく超えるような場合、景気対策により国の借金は一定程度増えるが、GDPはもっと大きな率で増えるために借金のGDP比は減って財政は健全化するということを説明した。その説明が難しすぎて理解できない人のために、もっと分かりやすい方法として、政府が直接お金を刷る、つまり政府貨幣を発行するという案がある。これは丹羽春樹(1995)、榊原英資(2002)、スティグリッツ(2003)などが提案している。政府がお金を刷るのだから、借金を増やすこともなく、必要なだけ景気対策が可能となり、デフレ脱却は簡単にできる。ただし、政府が勝手に好きなだけお金を刷って使うと、度を超してインフレになる恐れがあるために、その歯止めを掛けるため次の法律がある。

●貨幣回収準備資金に関する法律施行令(平成十五年一月二十九日政令第十九号)
第二条  貨幣回収準備資金に関する法律第六条に規定する政令で定める額は、毎会計年度末における貨幣の流通額の百分の五に相当する金額、日本銀行の保管に係る貨幣の額面額に相当する金額及び資金に属する地金(政府において引き換え、又は回収した貨幣を含む。)の価額に相当する金額の合計額とする。

●貨幣回収準備資金に関する法律(平成十四年五月十日法律第四十二号)
第十二条  毎会計年度末における資金の額が第六条に規定する政令で定める額を超えるときは、その超える額に相当する金額を資金から当該年度の一般会計の歳入に繰り入れるものとする。

 つまり、国の歳入となるのは、貨幣流通残高の95%相当額のみということである。日銀券発行残高が70兆円しかなく、日銀券をすべて政府紙幣で置き換えたとしても、歳入の増加は限定的である。スティグリッツ(2003)は、この制度を変えるように提案している。例えば、政府が発行した1兆円貨幣が100枚、日銀に収めたらそれがそのまま国庫に入るというように制度を変えたとしよう。政府はそれを財源として国の借金を増やすことなく景気対策をすることができる。霞ヶ関埋蔵金を財源とする場合も、政府貨幣を財源とする場合も景気浮揚効果は全く同じだ。

 政府貨幣発行により日銀が破綻するという説を深尾光洋(2005)は唱える。この説によれば、景気が回復し、逆に景気過熱を防ぐために売りオペが必要になったとき、政府貨幣は売りオペに使えないために、金利を付した日銀売出手形を大量に発行する必要が生じ、その結果利払い負担のために日銀が「破綻」するとのこと。このように日銀を破綻させるシナリオを作ることは簡単にできるのだが、逆に破綻を防ぐシナリオも簡単にできる。その例を挙げてみよう。

①政府は政府貨幣発行により無尽蔵の財源を手に入れたのだから、その財源の一部で日銀を救済したらよいだけである。

②日銀が「独立採算制」でやりたいなら、深尾光洋(2005)の提案に従って、ETFを日銀が買っていけば、株は確実に上がり、いくらでも利益を出すことができ、簡単に穴埋めが可能である。日銀のバランスシートが改善することで、円の信用が上がって行くであろう。(※ ETF; Exchange Traded Fund 。証券取引所(Exchenge)で取引可能(Traded)な投資信託(Fund)。2001年登場)

 改革とは、国の国際的な地位を高め、国民生活を豊かにすることである。その意味で小泉内閣以降の構造改革は改革ではなく改悪であった。デフレとは、お金が足りなくて経済活動に重大な悪影響を及ぼしているということであり、その時に政府が行うべき事は、何らかの方法で国民にお金を渡すことである。国にお金がなければ刷った金でよい。政府貨幣発行でなくても、日銀が国債やETFや土地や、その他何でも良いから買えば、その引き替えにお金が出ていく。このお金は新しく作られたお金であり、日本経済を成長させるために必要な貴重なお金である。

 一人当たりの名目GDPが世界2位から18位に下がり、世界のGDPにおける日本の割合が半減し、世界競争力ランキングでも1位から24位に下がり、経済的理由の自殺者が数倍に跳ね上がった。大田大臣は日本経済をもはや一流でないとさえ言った。このままデフレを放置したら、悲惨である。韓国、台湾はもちろん、インドや中国さえも日本を抜き去り、世界の中で日本は貧乏な国に成り下がってしまう。我々の次の世代に貧乏を押しつけても良いのだろうか。

 日本経済を救う処方箋ははっきりしている。日本国民に経済活動を行うに十分なお金を渡し、デフレを脱却させることだ。それを行うのが改革だ。お金はどこにもない。国が何らかの形で作り出すしかない。管理通貨制度の下では、お金は国が自由につくることができる。国がお金をつくった例としては1931年から高橋是清蔵相が始めた日銀の国債引き受けであり、戦後にもその例がある。

 よく知られているように、戦争で日本の産業は壊滅的な被害を受けた。物は不足し餓死者が出る状況で、ハーパーインフレが起きた。この状況から脱するために、1946年国は復興金融金庫を設立させた。その目的は民需生産を行う企業への貸し付けであり、生産を増やしインフレを抑制することであった。1946年に28億円、1947年に424億円、1948年に703億円の日銀による国債の引き受けが行われ(お金を刷ったわけだ)、お金が民需生産の拡大に集中的に使われた。もし国がお金を刷ってばらまかなかったら、企業もお金が無かったので生産設備に投資できず、物不足のままの状態が続いただろうし、インフレは慢性的に続いていたに違いない。

 生産力がでてきた1949年にはドッジラインで、財政健全化政策に転換、インフレはピタリと止まり、その後の高度経済成長へと移って行ったわけである。現代は、生産力が落ちているわけではないから、過度のインフレはあり得ないし、適量のお金を何らかの形で国民に渡すことに成功すれば、日本経済は活性化し、再び日本は世界で最も豊かな国に戻ることができる。例えば1947年に424億円の日銀引き受けが行われたが、これはGNPの44%に相当する。今はこれほどの大規模な景気対策は全く必要がないし、これよりはるかに小さな規模の景気対策で日本経済は見違えるほど活性化する。それに計量経済学の進歩で、景気対策がどのような効果があるか手に取るように分かることが過去の景気対策と違うところである。

 インフレは国の借金の重みからも解放した。戦時中軍事費の拡大を国債の日銀引き受けに頼っていたために、巨額の借金が積み上がっていた。これをお金を持っていない国民から税金を取り立てて返していたら、産業は育たず、日本は貧乏なまま現在に至っていただろう。国債の所有者に与えた損害、また国債の信用の失墜というマイナス面を差し引いても、日本の奇跡的な経済復興は全国民にとってメリットは大きかったのではないか。現代も同様だ。このまま放置すれば、日本は確実に貧乏になる。しかしお金を刷って、そのお金が国民に渡れば、経済は見違えるほど活性化する。今、その決断の時期に来ている。周到な計量経済学を駆使した分析の上で行う政策転換であれば、その政策で犠牲になる人などいなくなるはずだ。地方経済も大赤字で大変だ。所有している施設なども売って、借金を返そうとしている。売れば、その引き替えにお金が国民から地方政府に吸い上げられ、デフレが悪化するのだということも理解しなければならない。このような形の地方財政の健全化は、デフレを悪化させ国を貧乏にするだけだ。

 政府貨幣にせよ、国債発行にせよ、大規模に財政出動を行うとハイパーインフレになり、それが止められなくなるという説を唱える人がいる。先進国でそのような問題を抱えている国はいないし、そのような問題は起こりえないのである。つまりマクロ計量モデルを使い、どの規模でどの程度のインフレ率になるかは事前に知ることができるのだから、それに従ってインフレが度を超さないような規模で財政出動をすればよいだけである。

 過去のハイパーインフレは戦争の後に起きている。戦費を国債でまかなっていて国の借金が累積し、しかも敗戦で生産力が落ち、物不足になったときに起きている。第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレはGNPの20倍と言われる賠償金を正貨(金貨)で払えと連合国側から言われたけど、賠償金はどうやっても払えない。絶望感の中、いわば自暴自棄になったのだろうか。連合国に抗議の意味だったのだろうか。中央銀行が政府の意向を無視して、お金を刷りまくり、ハイパーインフレになった。これは通常では考えられないことである。

 このインフレを鎮めたのは、1923年11月15日に発行されたレンテンマルクの出現だった。レンテンマルクは、土地など不動産を担保にした紙幣であり、「レンテン」とは、レンテの複数形で地代とか利子、あるいは年金という意味である。

 こうして、新しい発券銀行としてレンテン銀行が設けられ、レンテンマルクとライヒスマルクの交換レートは1レンテンマルク=1兆ライヒスマルクと決定された。レンテン銀行の通貨発行量は32億レンテンマルクに制限され、国債引受高も12億レンテンマルクに制限された。レンテンマルクは法定通貨ではなく不換紙幣であり、金との交換は出来なかった。しかしながらレンテンマルクの発行によりドイツのインフレは沈静化した。このインフレの収束は「レンテンマルクの奇跡」Wunder der Rentenmarkと呼ばれた。

  戦後の日本もハイパーインフレに見舞われた。第二次世界大戦で戦費をまかなうためお金を刷りまくっていた。しかも空襲で生産設備を破壊され、生産力が激減、物不足なのに復興のために政府は通貨を大量発行しハイパーインフレになった。

 現在の日本は、このようなハイパーインフレになる状況とはまるで違う。物があふれているから、少々需要が増大しても、簡単には物不足にならない。特定の商品が不足しても、外貨はたっぷりあるから、直ぐに外国から輸入できる。多くの人が気にしているのは、発行された大量の国債だ。景気が良くなってきたら、国債が売り出され、現金化され、そのお金が動き出すということ。しかし、国債の下落を防ぐには日銀が買えば良いだけだし、国債から何に乗り換えるかと言えば、国の内外の株や外国国債などが多いのではないか。土地投機にも向かうかもしれない。バブル崩壊に伴う土地の下落で、資産価値が1200兆円失われたのだから、失われた資産価値がある程度戻るかもしれないが、ハイパーインフレと考えるのは現実離れしている。(小野盛司)

丹羽春樹 「カネがなければ刷りなさい」、『諸君』1998年MAY 5

榊原英資 「政府紙幣の発行で過剰債務を一掃せよ」『中央公論』第117年代7号(2002年7月号)

スティグリッツ Joseph E. Stiglitz "Deflation, Globalization and The New Paradigm of Monetary Economics" 関税・外国為替等審議会外国為替等分科会 第4回最近の国際金融の動向に関する専門部会、2003年4月16日。
http://www.mof.go.jp/singikai/kanzegaita/giziroku/gaic150416.htm

深尾光洋 「財政破綻の克服へ向けて」 調査報告 2004-6 ISSN 1342-4173 2005年1月 社団法人 日本経済調査協議会
http://www.nikkeicho.or.jp/report/hamada.pdf

人気ブログランキング ← この記事に興味を持たれた方はクリックお願いします!!
城内みのるさん応援サイトへ(日本に希望を与える信念の男、城内実)

|

« 国の借金を返した5つの例(小野盛司) | トップページ | 第49回 日本経済復活の会 開催のお知らせ (2月26日、火曜日) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/141377/40135662

この記事へのトラックバック一覧です: 政府貨幣発行について(小野盛司):

« 国の借金を返した5つの例(小野盛司) | トップページ | 第49回 日本経済復活の会 開催のお知らせ (2月26日、火曜日) »