« 2010年9月 | トップページ | 2011年11月 »

2010年10月14日 (木)

経済を成長させたいなら中国から学べ:通貨発行特権の利用(小野盛司)

日本経済復活の会 小野盛司会長の記事、第214弾です

 日本経済は円高、株安、デフレの3重苦に悩まされており、失われた20年の後、これから更に何十年失われるのだろうと危惧される。日本の失敗の原因の一つは、老大国である米国の金融システムをそのまま入れようとしたことである。「進んだシステム」が日本にとって必ずしも良いわけではなく、逆に日本経済を悪化させた原因になっている。

Photo_2  進化論を知らない人は、進化した生物ほど繁栄すると考えている。もしこれが本当なら原始的な生物は、とっくに絶滅してたはずだが、実際は原始的な生物と高度に進化した生物が共存しているわけで、必ずしも進化した生物が進化しない生物を滅ぼすわけではない。巨大な体に進化した恐竜は環境の変化に適応できず絶滅したが、進化しないで小さいままでいたほ乳類は生き残り繁栄していった。
 日本は老大国米国の金融システムをそのまま導入するのでなく、躍進する中国のシステムをもっと参考にすべきだと主張したい。中国の金融システムについて少し書いてみよう。

①中央銀行である人民銀行の独立性は無い。
②人民銀行が無制限にお金を刷って米国債等を直接買い取ることができる。
③人民銀行の巨額損失にも拘わらず、人民元の信認が失われていない。
④事実上の中央銀行の国債引き受けをやっている。

 中国人民銀行は、独立性をもっていない。人民元の上昇など金融政策の重要な決定は首相や国務院によって下される。日本経済がここまで悪くなったのは、日銀の金融政策の失敗だと言われることが多い。日銀は政府の政策との整合性を取ろうとしないし、デフレからの脱却に失敗しているのにその責任を取ろうとしない。かつて世界恐慌に巻き込まれて日本が昭和恐慌になったときに、見事に経済を立て直すことができたのは、大蔵省と日銀が協力して国債の日銀引き受けを行い、大規模な財政出動ができたからであり、政府と日銀は一体となって政策実行をしなければ、現在のような大不況からの脱却は不可能だ。

 そうであれば、中国のように日銀から独立性を剥奪し、政府の命令に従うようにすべきだ。そうすると、政府が国債を自由に発行するようになれば金利が暴騰しハイパーインフレになり円が暴落すると主張する馬鹿な識者がいる。中国を見ればよい。インフレ率も金利も為替も政府によっては見事にコントロールされている。中国にできて日本に出来ぬ事はない。

 中国の外国為替市場は、市中銀行が人民銀行に外貨を受け渡す場であるに過ぎない。人民銀行、従って政府が圧倒的な価格決定力を握っており、見せかけの柔軟性を示すために値幅制限内で値動きをさせている。実際は市中銀行に集まった外貨を人民銀行が直接引き受け、その替わりに人民銀行がお金(人民元)を刷って渡しているのである。

 人民銀行の資産(バランスシート)が異常に大きくなってきた。2009年10月時点で、22.5 兆元にまでなり、GDP に対する比率が70%近くにも達する。欧米(米連銀、英中銀、欧州中銀)の場合、中央銀行の資産が一昨年以来大きくなっているとはいえ、GDP 比で15−20%だし、日銀の資産はGDP 比25%程度である。資産が大きくなったということは、人民銀行が巨額の資産を、元を刷って買い取っているわけだ。

 日銀も同様に円を刷ってETF、REIT、国債、米国債等様々な資産を大量に買い取れば、デフレ脱却は可能だ。米国債等を政府から買い取るだけで、約110兆円の財源が生まれる。このように主張するといつも次のような反論が返ってくる。

①インフレになる。
②このような資産を買い取ると将来巨額の損失が発生し、円の信認が失われる可能性がある。

 しかし、この両方とも中国の現状を見れば間違いであることが分かる。中国政府は過度のインフレを完璧に抑えている。中国では、預金準備率を上げたり、金利を上げたりする事で、インフレは簡単に押さえ込むことが出来ているから①は完全に間違えている。

 05年7月の切り上げ直前を基準時点として、人民銀行が人民銀行債券金利で元を調達して米ドルの買い介入を行い、ドル資金を全て3カ月もの米国短期国債で運用したと仮定すると、05年7月から08年6月末までに、約1兆4000億元の損失を被ったと試算される。これは、約21兆円にも上る損失であり、中国の07年の名目GDPの5.6%にも相当する。今後見込まれる、更なる人民元切り上げにより人民銀行の損失は更に拡大するのは間違いない。しかし、元の信認は全く失われていない。それどころか、近い将来切り上げが確実な元を入手しようと、おびただしい人がその方法を探しており、逆に中国政府はそれを阻止しようと必死だ。

 つまり、「お金を刷れば通貨の信認が失われる」というのは真っ赤な嘘ということだ。もう一つ、中国政府の国債発行の例を書いておく。これは2007年の例である。政府が1兆5500億元(約25兆円)の特別国債を発行した。特別国債なので、市場には出回らず暴落の心配は無い。それをすべて国有商業銀行である中国農業銀行が買い取り、それを直ちに人民銀行が買い取った。要するにこれは事実上中央銀行による国債引き受けにすぎない。国の機関内での取引なので、誰もこれを「国の借金」とは呼ばないだろうし、将来国民の税金で返さなければならないなどと馬鹿なことを言わないだろう。日本もこの方式を採れば「国の借金」の問題は一挙に解決する。そうすればハイパーインフレになると言うのは中国を見れば嘘だと分かるだろう。

 このようにして政府が手に入れた資金の一部は、大幅な赤字を計上している中国農業銀行の増資(約400億ドル)に使われるとのこと。日本では不良債権処理に手間取って貸し渋り、貸し剥がし等の問題が生じ、経済に重大な悪影響が出た。中国流の処理の仕方であれば、お金を刷って銀行を助け、経済を活性化するのだから誰も文句を言わないし、速やかな処理が可能である。

 日米の金融の仕組みを比べて明らかなように、中国が通貨発行特権を十分に活用して経済を大躍進させているのに比べ、日本は自主的にその権利を放棄し、経済を破壊させている。これでは競争にならない。言ってみればサッカーの試合で中国チームだけは、手も足も使うことが許されており、日本は足しか使ってはならぬという自主的に決めたルールで試合をしているようなものだ。これで勝てるわけがない。今からでも遅くはない。中国の金融システムを未熟と言って馬鹿にするのでなく、中国を見習って日本経済を復活させようではないか。

人気ブログランキング ← この記事に興味を持たれた方はクリックお願いします!!

植草一秀応援バナー

小野盛司氏の日本経済復活シリーズ・インデックス

| | コメント (23) | トラックバック (12)

2010年10月 6日 (水)

遂に日銀が「お金を刷る政策」を始めた!(小野盛司)

日本経済復活の会 小野盛司会長の記事、第213弾です

Photo_2  日銀は10月5日の金融政策決定会合で、政策金利を現在の年0.1%から「0~0.1%」に引き下げると共に、国債や社債やETFなどを買い取ることを決定した。この程度の金利引き下げであれば、景気浮揚効果はほとんど無いし、これがほぼ限界であると言える。しかし、資産買い取りは我々が約10年前から強く主張していることであり、やっと実現するのかと感慨深い。こちらは、景気浮揚効果は間違いなくあるし、その規模は際限無く拡大できる。

 しかも今回は、この金融緩和策を気まぐれでは中断しないと確約した。すなわち、「消費者物価上昇率でみて1%程度が中心」の中長期的な物価の安定展望が出来る情勢になるまで続けるとある。期待したいのは資産買い取りである。買い取る資産としては国債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などがある。過去に行った日銀による量的緩和と大差ないように思うかもしれない。しかし、これは違う。今回は資産購入は5兆円とあるので、確かにこれだけなら効果は限定的だが、これだけで足りないと思えば、際限なく購入額を増やすことができるのだから、その場合は間違いなく効果はでてくる。

 慶応大学教授で日本経済研究センター理事長の深尾光洋氏はダイヤモンド2002年4月13日号に次のような提案した。
「もしも私が日銀総裁ならば、第一にインフレ目標を明確に打ち出す。具体的には、「毎年の物価上昇率目標を3%とし、プラスマイナス1%の幅の中で達成させる」と宣言する。インフレ目標達成を裏付けるために、ETF(株価連動型の上場投資信託)を毎月5兆円から10兆円ずつ買っていく。その際、総額で300兆円買い続けることをあらかじめコミットメントしておくのだ。」

 その少し前、MITのドーンブッシュも日本のテレビに出演し、日銀に徹底的に株を買わせれば景気がよくなると主張した。10月6日現在の東証の時価総額は約290兆円である。日銀がETFを30兆円程度買っただけで、日経平均は2倍程度になり時価総額が300兆円程度増加するだろう。これだけの利益が日本の至る所に分配される。日銀の儲けは一部国庫に入る。株の取引に関連する税金、取引で生じた利益の一部は税金として国に入る。もちろん個人金融資産1400兆円は大幅に増加する。年金の一部は株で運用しており、年金積立金が大幅増加し、社会保険料の値上げが不要となる。企業年金も運用利回りが大幅アップだ。株が上がり始めると地価にも影響が出てくる。株で儲かると何か買いたくなるものだから消費も上向く。そうすると輸入も増え、経常黒字が減り円安に向かい企業に追い風が吹く。

 日銀は為替介入で2兆円ほど米国債を買ったが、一瞬だけ対ドル円相場は2円程度円安に振れただけで、今は元に戻っている。正確に言うと米国債は実は日銀が買ったのでなく財務省が国債を売った金で日銀に委託して買ってもらったのだから国の借金として残っている。しかし、今回日銀がETFを買うということは、新しく作られたお金で買っているわけで借金として残らない。借金を増やすことなく際限無く買える。日本経済が正常と言える状態になるまで思い切って買って欲しい。

 更に喜ばしいのは今回35兆円の基金を創設し、資産を買い取るのだが、その際長期国債の買い取りは「銀行券ルール」の対象外とするということだ。「銀行券ルール」とは、日銀が長期国債保有額を日銀券発行額の限度内に収めるという自主規制である。このルールは2001年3月の量的緩和導入時に日銀が勝手に定めたものであり、何ら経済学的な根拠はない。しかし、今までこのルールによって日銀が長期国債を十分買えなかった。そうなれば、政府も売れ残るのではないかと心配し、恐くて国債を十分発行できなかった。この「銀行券ルール」の対象外の基金ができたことにより、政府は安心して国債発行ができるだろう。

 今後我々がやるべきことは、国債を財源とした景気対策をもっと大胆にやれと政府に要求することと、日銀はETF購入額をもっと増やせと要求することである。

人気ブログランキング ← この記事に興味を持たれた方はクリックお願いします!!

植草一秀応援バナー

小野盛司氏の日本経済復活シリーズ・インデックス

| | コメント (3) | トラックバック (7)

2010年10月 5日 (火)

景気回復の途中で行った緊縮財政が大不況を招いたルーズベルト不況(小野盛司)

日本経済復活の会 小野盛司会長の記事、第212弾です


Photo_2_2  9月9日の朝日新聞に「2010年の1938年 同じ過ちを繰り返すのか」というタイトルでクルーグマンが論説を載せた。クルーグマンは2008年にノーベル経済学賞を受賞した人物で、日本政府に対し繰り返して積極財政を進言している人物だ。彼の言う「同じ過ち」とは橋本政権による緊縮財政でなく、ルーズベルト大統領による緊縮財政だ。ルーズベルト大統領と言えばニューディール政策という公共投資中心の景気対策で世界恐慌から米国経済を救った人物として知られている。しかし、実はその景気対策を止めるのが速すぎたために、大不況を再来させてしまったのが1938年のルーズベルト不況なのだ。この二の舞になりそうなのが「菅不況」であり、これは警告である。

3_2

 その様子は、上図のグラフから良く分かる。大恐慌により米国のGDPは半減した。その後のニューディール政策により米国経済は回復軌道にあった1937年に財政健全化で引き締めに走っている。その結果、不況が再来した。これをルーズベルト不況と言い、悪い見本とされている。しかしその過ちに気付き1939年から再び積極財政に転じて景気は持ち直し、その後戦争が始まり米国は世界の工場とし稼ぎまくりGDPは大きく伸びた。究極の景気対策と言える。大不況から立ち直れたのは財政政策ではなく戦争のお陰だと言う人もいる。しかし、現代では戦争による景気対策は考えられないのだから、今後の教訓としては、むしろこの部分をカットしたほうがよい。

 そこで次に示すのが、1940年までのグラフで、米国の財政支出の規模と並べて示した。これで良く分かることは、財政を拡大すればGDPは伸びるし、緊縮に転じれば経済は縮小する。ただし、その効果は1~2年遅れて表れるということだ。つまりまだ麻生政権の景気対策の名残が残っているが、これからは民主党政権の緊縮の影響で景気がどんどん悪化してくると思われる。

Photo_6



 次の経済成長率のグラフを見て頂ければ、財政政策の効果がもっとはっきりする。

3_3

 実質経済成長率は1932年には-13%だったが、景気対策により劇的に回復し、1934年~1936年の3年間では平均約11%という高い成長率となった。ここまで回復すればもう大丈夫と大統領が思ったとしてもおかしくないが、しかしGDPは1929年の水準に達しておらず、また失業率も20~30%とまだまだ回復途中にあった。1938年3月のギャロップ社の世論調査では「景気の落ち込みを防ぐために政府支出を拡大すべきか」という問いに対し、63%がノーと答えたという。国民全体で緊縮を支持したようだ。消費税増税賛成が多数を占める今の日本そっくりではないか。

 1937年から緊縮財政が始まり、1938年まで続いた。その結果はてきめんであって、1938年には成長率はー3.4%にまで下がり、下図のように株価は暴落し、ほぼ半値になっている。クルーグマンは警告している。この経験からの教訓は、経済が大きく落ち込んだときは、借金を減らす努力を棚上げし、徹底的に景気対策をやらなければならない。世界大恐慌の際には、戦争という巨大な景気対策により経済は完全復活し、国の借金も消えた。現代は戦争という景気対策は望めないのだから、それに相当するような巨大な景気対策をやらない限り、経済は復活しない。

              出所:三菱UFJモルガンスタンレー証券

4_2

人気ブログランキング ← この記事に興味を持たれた方はクリックお願いします!!

植草一秀応援バナー

小野盛司氏の日本経済復活シリーズ・インデックス

| | コメント (3) | トラックバック (1)

« 2010年9月 | トップページ | 2011年11月 »